子供が生まれてから或る日数がたつと、初宮詣が行われます。これは男児三十二日、女児三十三日目にお参りするのが普通で、地方によっては五十日、百日とするところもあります。
初宮詣は、氏神さまに参るのが普通です。これは生児を初めて神さまの見参に入れる行事で、いわば"初名告り"を意味するものです。初宮詣をすることによって神さまにお認めいただくことが、地域社会の「氏子入り」の条件となるという仕来たりは今でも各地に残っています。それがその社会的な承認につながって行くことにもなる訳で、ここにも地域社会の承認については「神事」を伴うものであることがわかります。
初宮詣の時の赤児には、里方の親から晴着を贈られるのが通例です。その多くは紋付であって、これが式服であることを物語っています。この紋付の紋所は、大よそ平安時代の装束の紋様が時代を経るに従って紋所として固定したものです。鎌倉武士の旗印や戦国時代以後の武士の裃、さらに江戸時代に入ると一般庶民の紋付きにまで紋所がつけられるようになりました。紋所のつけられる場所はボンノクボの場所にあたり、ここは神霊の宿る所と考えられていました。そのはじめは幼児の深曽木(ふかそぎ、五歳の幼児の断髪式)の時に祖霊の宿るボンノクボだけは剃り残すことから来ています。初宮詣の紋付の紋は×印であったり鶴亀紋であったりしますが、今は家紋をつけるようです。紋所は、それを着る人が祖霊を背負っていることを意味します。祖神伝来の魂を受け継いだ幼児が神前に詣でて来たことを、氏神さまはどんなに喜んで下さることでしょうか。