■21号
鳩の声
「一夜さへ 夢やは見ゆる 呉竹の ふしなれぬ床に 木枯らしの風」足利義尚
12月の声を聞くと、八幡宮の境内にも冬の訪れを告げるつめたい木枯らしが吹きわたり、朝となく夕べとなく通り過ぎる人々の足音も心なしか寂しげに聞こえます。
12月は「師走」と呼ばれるように誰もが心忙しく行き交う季節ですが、それでも八幡さまのご神前には、しばし時を忘れて何事かを祈る人々の姿が絶えません。人の世に悩みごとや願いごとは尽きることはないのでしょう。
「いかにして 如何にこの世に 在り経ばか しばしもものを おもはざるべき」
和泉式部
(どのようにこの世の中を生きていけば、せめてわずかな時間だけでも、悩んだりせずに すむだろうか?…いや、そんなことはありえない…)
和泉式部、彼女がこの切ないため息を三十一文字の歌に託したのは今からおよそ1,000年前の平安の世…これは遥か遠い昔、既に私たち日本人の祖先たちが「人の世に、悩みごとが絶えることなどありえない」ということを実感していた証拠ともいえましょう。
しかし、それは同時に1,000年の時を経て私たちを取り巻く環境は素晴らしい発展を遂げたというのに、肝心の私たち人間の意識はほとんど進歩していないということではないでしょうか?むしろ、子供になりつつあると感じられるくらいです。
祝詞(のりと…神様へ祈りや願いを伝えることば)の中に「人の力は限りあるものにしあれば…」という言葉があります。私たち日本人は長い歴史の中で「個々の人の力には限りがある」ことを感じとっていました。それ故に、お互いが相手のことを思いやりながら共に力を合わせ、一緒に神様に祈ることで心を一つに結び固め、皆で一歩一歩進み続けて今日の繁栄を迎えたのです。
今、私たちの周囲ではお互いを思いやることができないために起きる不幸が連日、世間の耳目を騒がせています。でも、人は決して不幸になるために生きているのではない筈です。
休みの日、少し早起きして八幡さまへお参りしましょう。境内の空気はどんな時も清々しく澄み切っていて、皆さんの心を優しく迎え入れて癒してくれることでしょう。特に雪の朝、まだ誰も足を踏み入れていない光景は素晴らしいのひとことです。
世の人々はみんな、悩みごとやつらいことを抱えて生きています。でも、くじけずにお互いを思いやる気持ちを胸に心新たにお正月を迎えたいものです。いつでも、八幡さまは皆さんを見守り続け、悩みごとや願いごとを待っています。つらいときは、遠慮無くお参りして甘えましょう。私たちは、決して一人で生きているものではありませんし、一人で不幸になったり幸せになれるものでもありません。周囲と手をつなぎ、励ましあいながらも神様に祈りをささげ、そのご加護を頂いてこそ、はじめて明るい未来への道が開かれる筈です。
「踏み分けて 訪はるる 雪のあとを見て 君をぞ深く 神や守らむ」
法印源全
Q:厄年や厄祓いについて教えて下さい。
A:厄年とはもともと陰陽道で慎み忌むべき年回りのことをいい、古くから厄年にあたる人は氏神様に詣でて厄祓いの祈祷を受けてその災禍をのがれて参りました。もっとも、この厄年とは男25・42歳、女19・33・37歳と男女49歳を指し、また本来「年祝い」であった還暦の男女(61歳)をも含みますが、もともと古来の社会生活の中で各人が共同体で神事や持ち回りの役職などを務める「役年」として、その役目の為に心身を清め、行いを慎むという考え方や、肉体・精神的にも節目にあたる年として祓い清めが必要との考えなどが習合したものといわれております。
我が国では、平安時代には『源氏物語』などの文学作品にも例が残されているように、かなり古い起源を持ちますが、一般の人々まで広く普及したのは江戸時代頃といわれております。
厄年は前後の年をそれぞれ「前厄」「後厄」とし、当年の「本厄」と共に厄祓いを受けるならわしで、特に男の25・42歳と女の19・33歳は「大厄」といわれ、重んじられて参りました。
また、厄年の年齢は「数え年」が用いられます。
もともと我が国には「零」の概念が無く、生れた日を1歳とし、その後新年を迎えると2歳となりました。これはお正月に各家庭に「歳神様」を迎えて新たな年の五穀豊饒と家族の幸せを祈る古くからのならわしから、その大切な節目である「お正月」に年をとるのがふさわしいと考えられてきたからであるといわれております。その後、明治5年に諸外国との交流による必要性から太陰暦から太陽暦への移行にともない、自分の誕生日毎に年齢を加える「満年齢」が普及し、現在に至っております。
このような経緯から、厄年の数え方についても「満年齢」が普及しておりますが、神社においてはは我が国の伝統的な考え方である「数え年」を尊重しているのです。
尚、本年の「厄年」は、下表の通りとなっております。八幡宮では毎日朝9時より夕方4時までの間「厄祓い」をはじめとするご祈祷を受付ておりますので、どうぞお参りください。
また、「厄祓い」は新年の元旦より節分(立春の前日、平成16年は2月3日)までの間に行うのがよいでしょう。