国宝 大崎八幡宮
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八幡さま便り

■18号

鳩の声

【写真】八幡さま便り18号一陽来復(いちようらいふく)。
日本では古くから、言葉には霊力が宿るとされ、言霊(ことだま)として恐れられ、畏敬もされてきたが、言葉が力をもって他に影響を与えるものとして現在でも生活の中に、火の用心や交通安全などの標語として、また団体や企業などのスローガンとして、言葉が大事(?)にされている。
はじめに掲げた「一陽来復」は、天賞酒造が今年の裸参りにかけた「願い」である。天賞酒造は大崎八幡宮の御神酒を造る酒蔵であり、毎年その年の「願い」を大きな板に墨書し松焚祭に裸参りするのが習わしである。
今年の1月15日、いつものように松焚祭のあと片付けでの最中、この言葉が輝きをもって私の目に飛び込んできた。新年には誰しもが「今年も(今年こそ)いい年でありますように」、との願いを込めて神社やお寺へ参拝するが、それを世情に照らして言葉にしたとき、これほどみんなの思いを集約した言葉はないのではないか。
辞書には、(1)冬が終わりやがて春がやってくること(2)やっといいほうに向うこと(3)陰から陽へ転ずること、等の説明があるが、一筋の光明が、暗い世界に夜明けをもたらし、すべての生産、生命の躍動する明るい朝がやって来る。このような意味を持つ言葉として私には映った。
現実にある不況、漠然とした鬱屈、将来への不安から誰もが「一陽の到来」を待ち望むのは当然と言える。
昨年の小泉内閣誕生もその気持ちの表れの一つであろうが、抜本的な行財政改革、金融不安の解消、外交問題、教育問題、等々。解決しなければならない課題が山積する。
これらの諸問題は戦後からの50数年、常に課題となっていたものであり、昨日今日急に発生したわけではない。ただ、常に先送りされたことにより問題がここへきて大きく収斂されたものである。
問題の先送りは、今いる子供達だけではなく、これから生まれようとする子供達も含めた将来への重荷であり、それが未来への希望を希薄にし、いろいろな問題に派生し不安感を一層掻き立てる。
 およそ400年前伊達政宗公がご創建し、現代に引き継がれた宝ものをより良い形で後世に残そうと、今を生きる私達の為すべき事として始められた「御社殿保存修理事業」であるが、当八幡宮では、去る4月18日上棟式を行い、この秋には屋根も出来上がり構造的には元の形に復する。平成14年、15年度に漆塗り・彩色の工事を行い、最終的には2年後の平成16年6月末に完了する。この大崎八幡宮御社殿修復工事の完了が、仙台に「一陽来復」をもたらしますよう願わずにはいられない。
この便りが皆様のお手元に届く頃は、サッカーのワールドカップの最中であり、日本人選手の活躍に一喜一憂していることとは思うが、日本初勝利、予選突破、まさかの優勝などという夢を、現実のものとして行うのは選手自身であり、私達自身も政治家任せにするのではなく、身近なことを私達の問題として、道に落ちている空き缶を車を停めて拾うことから「一陽来復」を始めようではないか。
もっとも「一陽」がもっと身近に美味しいお酒だったりするかもしれないが。


八幡宮Q&A

Q:今年の四月十八日に斎行された上棟式の内容について教えて下さい。

A:上棟式は、造営事業の中で最大の行事であり、古儀に則り工匠等によって斎行されるもので、建物の棟木を上げるにあたり、家屋や工匠の守り神である屋船久久遅命、屋船豊受姫命、手置帆負命、彦狭知命をお祀りして無事棟上げに至ったことを感謝、祝福すると共に、竣工に至るまでの工事の安全と建物の堅固長久を祈願する儀式です。
その起源は平安時代末期まで遡り、建久元(一一九〇)年の伊勢神宮『内宮遷宮記』に記録されており、以後次第に普及し、江戸時代には広く一般にも斎行される様になりました。
式に先立ち、屋根の上の中央の榊に棟札を供え、一番高い棟木には祝福を表す五色の幟や御幣を立て、東には天に向けられた鏑矢、西には地に向けられた雁股矢をそれぞれ弓に番えられた状態で飾ります。この東西の矢は天地の災難を祓い、鬼門を戒める破魔矢として建物を守ります。
当宮では、先ず仮殿において宮司以下神職の奉仕による「上棟奉告祭」が斎行された後、拝殿唐破風屋根前に設けられた架台を斎場として上棟式が斎行されました。式は先ず斎場内の奉仕者や参列者をはじめ式具一切を祓い清める「修祓」に始まり「降神の儀」、「棟賀寿詞奏上」と続きます。
そして「丈量の儀」にて社殿の位置の確認を行い「曳綱の儀」にて威勢のよい掛け声と共に棟木を曳き上げ「槌打の儀」で束柱に差込み、打ち固めます。最後に「撒銭・撒餅の儀」で天地の神々に感謝のお供え物として金銭・銀銭、紅白の餅が撒かれて神事は結びとなります。
今から約八百年前の承元二(一二〇八)年七月五日、鶴岡八幡宮の上棟に際し、鎌倉幕府三代将軍源実朝公は
「宮柱ふとしき立てて万代に 今ぞ栄へむ鎌倉の里」

という和歌を詠み、この神事を通して武門の都たる鎌倉の繁栄長久をお祈りされました。
我々もまた、前代の技と心とを次代に引継ぐこの神事を通し、その歴史的使命に誇りと感謝の念を胸に抱き、御鎮座四百年記念事業の成就に尽力することを以って、藩祖・伊達政宗公が雄大なる遠慮深謀のもとに築かれた「杜の都・仙台」の更なる繁栄長久に寄与して参りたいものです。

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